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想いの代償 83 【M】






「邪魔とは…また、えらく極端な表現だね」

松本「…」

「そこに美月の意思は無かったと言っているように聞こえるよ」

松本「…美月さんは、最後には中島くんと行くことを決めていました」

「確かに、そう聞いていたな」



あの頃のことは今でもよく思い出す。

済んだ話だと何度自分に言い聞かせても、決して消えはしない記憶。

彼女の幸せを願って、親友の決断を信じた。

美月の選択と、彼女を連れて行くと言ったあいつの想いの強さに譲った。

譲らなければならないと覚悟した。

見せかけだけの覚悟は、いとも簡単に綻んで崩れた。

思い出すたびに胸が苦しくなる、想いの痕跡。



松本「…気持ちを抑えることが出来ませんでした。諦められなかったんです。結局、中島くんが僕の我儘を身を引く形で聞き入れてくれました」

「そうして、美月もまた君を選んだ。何ら問題は無いように思えるがね。破談になった理由についても、元々あちらの親御さんは反対なさっていたからね。説得することが出来なかったと中島くんは言っていた」

松本「…」

「詳しい事情は彼からのその説明だけで、当人同士の気持ちなんかは聞かされていなかったけれどもね。美月も、もういい大人だ。親子とはいえ逐一詳細に報告する方がおかしいだろうから」

松本「ご両親に報告…と言いますか、紹介が出来ないような付き合いを彼女に強要したのも自分です」

「うーん…しかし、今日はそのことをわざわざ謝りに来たわけじゃないだろう」



当然のことながら違う。

忙しい合間を縫って、同じく忙しいこの人の時間を貰ってこの場を設けたのは、謝罪の為じゃない。



松本「……目を瞑ってください」

「…」

松本「僕が今後も美月さんの人生に関わり続けることに、目を瞑っていただけませんか」



ここまで失礼な初対面はそう無いと思うし、無謀だということもわかってる。

だけど他にどんなことが言えただろう。

正解には程遠かったとしても、これしか無かった。



松本「正直に言います。普通のお付き合いは出来ません。平凡な幸せは、今は見通しすら立ちません」

「…」

松本「それでも、僕たちの好きにさせていただきたいんです」



約束は何一つしていない。

結婚しようだとか、ずっと一緒にいようだとか。

付き合いがそれほど長くなくとも、その時々の気持ちの高ぶりで口にしてしまってもおかしくはない言葉たち。

そのどれもこれもが、俺には重かったから。

不確かな約束で美月をがんじがらめにすることは、どうしても出来なかった。

意気地なしだと言われればそうかもしれない。

無責任だと叩かれても文句は言えない。

それでも、俺には美月が必要なんだ。



「いやはや…」

松本「…」

「一分で済んだ」

松本「…?」

「もし君が美月さんとのお付き合いを許してくださいと言ったら、許すも許さないも無い、決めるのは娘だと応じただろうし、親として認めるかと問われたなら、私にはまだ判断材料が無いと答えただろう」

松本「…」

「目をつぶれ。最も手っ取り早い(笑)」



俺の失礼な物言いを咎めもせず、美月の父親は愉快そうに笑った。



「この場に美月を同席させなかったことも実に賢明だね。あの子がいたら、おそらく黙ってはいなかったんじゃないか?煩くて話にならない」

松本「後で怒られるのは覚悟の上です。許してもらえるかは…わかりませんけど」

「その時はその時だな(笑)」



丸い眼鏡を外して、人差し指と中指の関節で目頭を押さえる。

この仕草を俺は何度も見たことがある。

度のキツい眼鏡が恥ずかしいからと、眠る寸前までコンタクトレンズで頑張って、乾いた目を擦ってた。

美月が眼鏡の顔を見せてくれるようになったのは、まだここ一年位の話。



「もし、君と美月が後にこの件で軽く揉めた挙句、どうにか仲直りをしたとして。その時はまた私達に会いに来てくれるかい?」

松本「はい…!伺います」

「うちのが喜ぶよ。君の来るのが楽しみで仕方ないんだから」

松本「え…」

「本当は今日が三度目の正直なんだろう?私が留守の間に二度来てくれたね」

松本「ご存知だったんですか」

「自分が来たことは伝えないでくれと君は頼んだらしいが、頼む相手を間違えたよ。うちの奥さんは隠し事があまり上手くないんだ。念のためと思って、美月には伏せておくよう言っておいたけれどね。青白い顔で現れる君を、多忙の中ほとんど寝ずにここへ来ているんじゃないかと…それはそれは心配していた」

松本「…」

「近頃は特に私のスケジュールがはっきりしなくてね。だいぶ体調が落ち着いてきたのもあって、留守がちだったんだ。お父さん、松本さんが倒れてしまいます、後生だから家に居てくださいと、最後は泣かれたよ(笑)」

松本「僕の勝手で…すみませんでした」

「こちらこそ、何度も無駄足を踏ませてすまなかったね。今日はどうもありがとう。お会い出来て嬉しかったよ、松本くん」



『松本くん』

そう呼ばれて、力が抜けた。

張りつめていた緊張の糸が震えながら解けていく。

知らぬ間に強張っていた指先に血が通い出す。

もっと早くにこうしていれば良かったとは、何故か思わないんだ。

ずいぶん遠回りをして、たくさん間違えもした。

でも今だからここに居る。

今の自分まで辿り着いてやっと、ここに立つことが許されたんだと思うから。

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コメント

Re: 0815pochiさん

鷲鼻丸メガネのパパから美人歯科医師の娘って想像しにくいかな…
どうですか?今さらだけど(笑)

2019/07/03 (Wed) 22:44 | アキラ #- | URL | 編集
Re: 快獣マミーさん

連投したり、しなかったりしようと思います(それはそうだろ)
ミュージックデイのシャッフル、潤くん岸くんで硝子の少年なの!?
楽しみですね!
ヒナのシンデレラガールも楽しみです^^

2019/07/03 (Wed) 22:40 | アキラ #- | URL | 編集
Re:夢子さん

お久しぶりです。
そうなんですよ、ひっそりこっそりやってます^^
また来てくださいね。

2019/07/03 (Wed) 22:30 | アキラ #- | URL | 編集
お久しぶりの松本さん

美月パパ良い人でよかったですね。

美月さんと松本さん、幸せになってほしいです。

もう現実と物語がごちゃまぜです。

2019/07/03 (Wed) 13:24 | 0815pochi #9jWqlL3Q | URL | 編集
あぁ 一つ

山をこえたのでしょうか?それでも 他の話を読む限り 手放しでは喜べない あきらさんワールドにひたすら 呑み込まれていってます。
皆がそれぞれ苦しんで泣いて悩んでる。
きっと 光はあるよね。明けない夜はない

あきらさん連日の更新ありが糖おりご糖

2019/07/02 (Tue) 13:35 | 快獣マミー #FBS4NHfE | URL | 編集
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2019/07/02 (Tue) 08:48 | # | | 編集

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