fc2ブログ

おーばーさいず 92 【A】






目を見ましたか?と、園長先生はおっしゃる。

たとえば話ができないとしても、向かい合うことが叶うなら目線を合わせてみましょう。

目の奥を覗くと見えてくるもの。

そこにあらわれる自我の確立と並行して深くなる色合いの何かに、私たちは気付くことがある。

この目に出会うたび思った。

感じやすい心を、守ってあげられる人になりたいと。


今夜帰らないはずだった私を玄関で迎え入れながら、高橋くんは何も聞かなかった。

少し驚いた顔をして、タクシー?金持ちじゃんと言って笑っただけだった。

部屋に直行して思う存分泣くつもりで帰って来たのに、彼の赤い目を見た途端そんな気持ちはかき消えてしまった。

何かあったのは、高橋くんの方だ。



優子「…映画やめたの?」

高橋「あー、うん。なんか面倒くさくなっちゃって(笑)部屋も片付けないと、木っ端だらけのままだしね」

優子「ラルフは?」

高橋「小野寺の部屋。あいつの新しいソファが相当気に入ったみたい」

優子「あっ、もしかして…」

高橋「ちくわも一緒」

優子「大変!また毛だらけにしちゃう」

高橋「平気平気。あとでコロコロしとけばいーよ。わざと開けっ放しにしてラルフとちくわを部屋におびき寄せてんだもん、あいつ」

優子「おびき寄せてる?(笑)」

高橋「隠れムツゴロウさんだからね」



そういえばムツゴロウさんて麻雀すごいらしいよ知ってた?なんて話を小声でしながら、高橋くんはやかんを火にかける。

何その情報、王国のイメージ崩壊するからやめてくれない?って言って、私は戸棚からココアの缶を取る。



優子「小野寺くん動物好きなのに、なんで飼わないんだろう?」

高橋「誓ったんだって。小学生の時に拾った犬がいたんだけど、何年か前に老衰で死んでさ。その時もう二度と動物は飼わないって決めたらしいよ」

優子「そっかぁ…」

高橋「聞いたことあるような話でしょ」

優子「…でも気持ちわかる。私も子どもの時、一生新しいお父さんはいらないって言ったの覚えてるもん」

高橋「それはまた…話が違くない?」

優子「まぁね(笑)」



あの時、お母さんはそうだねと言って笑って泣いて、弟は泣くなバカ姉と私の頭を叩いた。

お母さんの泣き顔は、あれっきり一度も見ていない。



高橋「…ねぇ、優子ちゃん」

優子「ん?」

高橋「本当の…素直なキモチを主張できるのは、子どもだけの特権だと思う?」

優子「うーん…まぁ、少なからずあるかもね。大人になればなるほど気持ちを抑え込むことが習慣化していくと思うし」

高橋「…大人が素直になれないのは、嘘つきになるからなの?」

優子「大人の場合は…勇気の問題なのかなぁ…」



今の私にその勇気があれば、きっと逃げ帰って来たりはしなかった。

高橋くんは、ゆっくりまばたきをして呟く。



高橋「勇気か。なんか…腑に落ちた。足りなかったのは勇気だって思ったら、全部わかった気がする…」



私は黙って言葉の続きを待った。

チャームポイントの可愛い涙袋がうっすら赤いから、なんだかやりきれない気持ちになった。



高橋「…あの人の見てる景色を見たいってね、なんの拠り所も無いのに日本を飛び出してったんだ。彼女」

優子「…イギリスだっけ?」

高橋「うん。今と違って彼がまだほとんど無名だった頃、たまたま知り合いの画廊で見つけて。彼女ね、夢中だった。寝ても覚めても彼の絵のことばっかり。こんな絵を描く人はどんな人だろう、何を見てる人だと思う?って(笑)」

優子「…」

高橋「行くな…って、言えなかった。帰って来いも、まだ言えてない。彼女には有って俺に無かったのは覚悟と、勇気だったんだよね」



彼の賢そうな目の奥には後悔と寂しさがあった。

取り返しのつかない寂しさが。



高橋「…わかってたんだけどねー、どっかで。彼女は天才だったし、俺は凡人で、この通りの意気地無し(笑)伝える勇気も持ってない」

優子「でも…思いやる心を持ってるじゃない。足りない勇気の代わりに、その分以上に高橋くんは優しさを持ってる」

高橋「…」

優子「いつも、どんな時も、高橋くんがお帰りって笑ってくれるとホッとするんだよ。あなたの優しさに、ここで夢を追うみんなが救われてるよ。それって結局は天才と同じだと思わない?」

高橋「…褒めすぎ(笑)」

優子「本当だよ。私だって高橋くんのこと…」

高橋「…」

優子「尊敬してる」

高橋「…俺も尊敬してるよ、優子先生」

優子「嘘つけー(笑)」

高橋「嘘じゃねーよ(笑)でもさ…」



夜のキッチンは静かで、やかんのシューシューいう音がよく響く。



高橋「さっき、優子ちゃんが俺のこと…」



コンロの火を止めながら、ふんわりと微笑む横顔。

この人は時々子どもみたいなのに、時々すごく大人らしくて…



高橋「もしかしたら、好きって言ってくれんのかなーって……ちょっと期待した俺がいたよね!(笑)」

優子「なに言ってんの(笑)人が真面目に話してる時に!」



こんな時に。

こんな時なのに。

なんで私は笑えるんだろう…



高橋「…さて。ちくわ捕獲しよっか?」

優子「そうだった、コロコロ!」



高橋くんに笑ってて欲しいと思った。

目の奥を覗き込んで、うっかり知ってしまった彼の寂しさを、どうすることもできないのが歯痒かった。

人気ブログランキングへ
関連記事
おい、どら焼き寄越せよ。 | Home | 甘美な韻律 87 【S】

コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/07/16 (Tue) 21:32 | # | | 編集
Re: Emilyさん

も〜う社畜も社畜、業務内容も就業時間も増えました(笑)
オタ活資金なんて言ってるけど実際はほとんど子供費に消えてるし、次の現場も9月の推しJr.くんの舞台まで無いから、正直モチベーション維持がキツいです…頑張ろうねお互い…
私たちの推しキャラ高橋くんはまだ出てくるんだけど、脇役掘り下げるの悪い癖だって本当はわかってる(笑)

2019/07/15 (Mon) 16:32 | アキラ #- | URL | 編集
高橋くん、好き。

私も高橋くんのこと好きって言うのかと思った(^^;
私は結構、高橋くん推しなのでね、二人とも大人だし、何かあっても大丈夫だよ(なにが?)
ゆうちゃんも高橋くんも、お互い辛い夜に一緒にいるなんてね。今後の展開が楽しみ…(笑)

前にアキラさん、お豆腐メンタルで…とか言ってたのに、立派に社畜になったんだね!人は強くなるんだね!
何だか勇気が湧いてきたよ、私も頑張る。ありがとう(^-^)/

2019/07/15 (Mon) 10:56 | Emily #- | URL | 編集
Re: 快獣マミーさん

気になって「透明人間 あらわる」でググっちゃったよー(笑)
ピンクレディーだよね?
でもゆうちゃんのオーバーオールはわかんなかった。
優子先生、いつの間に?
私の知らないオーバーオール…
三連休は普通に仕事でーす!
次の現場に備えて社畜パートやってます!
快獣マミーさんはお出かけ?

2019/07/13 (Sat) 20:21 | アキラ #- | URL | 編集
Re: 0815pochiさん

男の人でも女の人でも、優しいって1番のモテ条件ですよね〜。
色んな優しさの形があると思うけど、人に優しく接するって基本中の基本がちゃんとできている人は尊敬しちゃいます!
高橋くんは私の思うモテ男なんです^^

2019/07/13 (Sat) 20:14 | アキラ #- | URL | 編集
強敵あらわる あらわるー♪

ん? なんか違うな でも 歌詞で「あらわる あらわるー♪」ってフレーズの歌ありましたよね? あっ 「とーめーい 人間♪あらわる あらわるー♪」だ
そして 歌詞は出たけど 曲名はヤッパリ出てこない。

お早い更新 ありがとうございます。
ゆうちゃん そう オーバーオールの優子先生だ←設定は覚えてた

一人消えると 新たな一人があらわれる。
なかなか うまくいきませんね。

さて 三連休 アキラさんは なにされるかな?
素敵 姫ちゃんたちのエピソードありがとうございました。

2019/07/12 (Fri) 23:41 | 快獣マミー #FBS4NHfE | URL | 編集
どっちが優しい?

高橋くんは優しいね。でも別の意味で雅紀くんも優しいんだよね。今の状態では、高橋くんの優しさの方が、ゆうちゃんにはじんわりしみちゃってるよね。

雅紀くんが唯一素直になれるのが、ゆうちゃんの前だったりするんじゃないかな?

高橋くんって、なかなかの強敵ですね。頑張れ!雅紀くん!

2019/07/12 (Fri) 11:59 | 0815pochi #9jWqlL3Q | URL | 編集

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する